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コードノート

コードノートはwebを中心にテクノロジー・クリエイティブを伝えるWebメディアです。コードリンク代表、片岡亮が執筆しています。

Not Now. Not Here.と宿命反転

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世の中はGWとのことですが、平常運転で仕事をしている今日この頃です。とはいえ多少は内装をいじったり、本を読んだりする時間の比重を高めにしています。

 

これをこうして完成。

リョウさん(@ryo_codelink)がシェアした投稿 -

そんな中、今日読んでいた「遙かなる他者のためのデザイン」という書籍の中にある言葉が面白かったのでご紹介。

著者の久保田晃弘さんは、東京大学・大学院工学系研究科博士課程修了で現在は多摩美の情報デザイン学科教授、そしてメディアアーティストという方でまさにそんな人の頭の中が詰まったような書籍でした。つまりぶっ飛んでいて難しい。笑

タイトルにはデザインという言葉が入っていますが、一般的に想像される芸術的な意味でのデザインというより、デザインとは何かという思想が詰め込まれた一冊です。

個人的に本書で一番シビれたポイントは、アインシュタインの特殊相対性理論である、E=mc^2から宇宙の計算能力を算出し、スパコンの性能や囲碁のパターン総数と比較している辺りです。そんなことも書かれているデザインに関する書籍です。デザインっていったい何なんだ。

Not Now. Not Here.

この本の内容について論じるのは中々ハードルが高いので割愛するとして、最後のまとめの中で引用されていた文の中で面白かったのが「Not Now. Not Here.」という言葉です。

これは、これからのデザインは「日常」や「今、ここ」を掘り下げるのでなく、「今でなく、ここでない」ところにいる他者を想像しそこへ行く道をつくるものである、という言葉です。

例えばわかりやすいところで言えば、VR・AR技術も今ここにいながらにして、今ここでない日常を作り出すデザイン装置です。

AI・IoT技術だって今後進化を重ねていけば、今ここにある日常を便利にしまくり、現代と比べれば今ここでない日常を作り出すこととなります。

こんな言い方をするとIT技術だけがそれをできるように聞こえますが、空間デザインやインテリアデザイン、または絵画や音楽だって今ここにある日常を変える技術でありデザインです。

「今、ここ」を変えるものはすべてデザインなんですね。

ただNot Now. Not Here.というのは、否定系であるNotという言葉を使っているとおり、少しだけ今を変える・良くする、という文脈ではありません。

では、「今でなく、ここでない」そんな「今、ここ」を作るには今にどんな変化を加えれば良いのか。そこで本書の中で何度も引用されているのが、荒川修作さんの「宿命反転」です。

岐阜にある養老天命反転地や、東京の三鷹にある三鷹天命反転住宅は有名ですよね。

retrip.jp

matcha-jp.com

先日、NHKの「アートの旅」という番組でも、反転住宅が紹介されていましたが、かなりエキセントリックで非日常的な空間が作られています。

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これら建築もそうですが、動画でも一発で荒川修作さんのぶっ飛び具合が伝わってきますね。

「Not Now. Not Here.」と「宿命反転」は近しい表現で、「今、ここ」を少し良くする程度では現実は変わらなくて、今ここにある日常を"反転"と言えるぐらい変化・拡張させることで初めて現実は変わると言えます。

さらにいえば人間、たまに非日常を感じる程度では変化しません。年一でディズニーランドに行ったりフェスに行っても、楽しんで終わりですよね。

そこで天命反転住宅は、生きる中で一番滞在時間の長いまさに日常の代名詞ともいえる、自宅という空間を反転させています。それにより人間の現実を変容させるのです。

大前研一さんの言葉だったと思いますが、よく人生を変えるには、「時間の使い方を変える」「付き合う人を変える」「住む場所を変える」なんて言います。

これはまさに日常を反転させる・リデザインする手段なんですよね。

天命反転住宅は、もちろん住む場所を変えていますが、さらに時間の使い方も付き合う人も変わってしまうような空間だと思います。

デザインはそうやって、すべての日常を極限まで拡張し反転させる力をもった装置としての役割を担っています。

あり方としての今、ここ

また「今、ここ」というと最近では瞑想やマインドフルネスといった領域で使われることが多い言葉です。

Googleが社員に向けてマインドフルネスプログラムを開発して以来、瞑想はアメリカでのエグゼグティグ層の間でブーム!とか、ジョブズも毎日瞑想していた!みたいな。

僕が斜め読みした知識をまとめれば、ストレスの原因となる過去・未来や、世の中のTV・スマホなどで溢れている情報に踊らされるのは止めようと。

そして目を閉じ、心を落ち着けて「今、ここ」に集中すれば、心穏やかになるしアイデアも湧き出てくる、みたいな話だったかと思います。

これは正しい話なので、人としての生き方・あり方としても「今、ここ」を見るというのは重要なキーワードです。

ただ一方で、この文脈での「今、ここ」を解釈した言葉としてあるのが、「今のままの自分で良いんだよ」「そのままの自分で良いんだよ」みたいな甘い言葉です。

確かに過去の失敗からくるコンプレックスや、未来に対する漠然とした不安を抱えて生きるよりも、今の自分に集中して穏やかに生きるのは幸せです。

ただ「今、ここ」という言葉のエネルギーを、ただの日常の幸せに留めて使うのは、日なたぼっこして寝ている猫となんら変わらないのですよね。

順番としてまずそうやってフラットな自分の状態作りをすることは重要です。ただそこに留まってしまうのは勿体ない。

Googleが社員に対し「今、ここ」に集中しよう、と伝えるのは、猫みたいにゆるく生きようというメッセージでなく、それによって世の中を反転させようというメッセージですよね。

それはつまり「今、ここ」でありながらも、さらにそれによって「Not Now. Not Here.」を産みだそう、というメッセージなのだと思います。

デザインというと極一部の人間だけが行うことのように感じますが、そうやって生きている人間はみなデザイナーなのかもしれません。

 

このように、圧縮された言葉や概念というものは、その人のあり方しだいでいかようにも捉え方が変化します。

人それぞれ、世の中から何を受け取ることができるかも「今、ここ」生き「Not Now. Not Here.」を生み出せているのかしだいなのですよね。

こんな形で、たった一つ圧縮された言葉を解凍しようとするだけで、こんな長文になってしまう本書、よろしければご覧ください。

ちなみにここまで引用してきた「Not Now. Not Here.」ですが、一部省略していて本当は「Not Now. Not Here.Not Human.」です。

書名にある遥かなる他者とは、"Not Human"つまり人間のことでなく宇宙人のことなのです。笑

話がもっとややこしくなるので省略しましたが、ぜひNot Human.までを踏まえて読んでもらえたらと思います。

僕のGW読書日記でした。